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2021.01.31更新

 

緊急事態宣言の下、外出もさらにままなりませんね。

 

さて、そんな中ワクチンが希望の星といえます。自粛の中、ワクチン研究をしている先生のお勧めで吉村昭さんの「雪の花」を読みました。大変におもしろい本でしたし、短い作品なのでおすすめです。以下はネタバレを含むので、読んでみようかという方は読まないでください。

 

雪の花

https://www.shinchosha.co.jp/book/111723/

 

これは江戸幕末に天然痘に対するワクチンである「種痘」を日本でひろめた福井藩の笠原良策(りょうさく)先生の物語です。

 

天然痘は高熱、水疱をともなう病気で、罹ると必ず発症し致死率20−50%の恐ろしい病気です。
現在は、ワクチンで人類が根絶できた唯一の病気なのでみることは出来ません。
でも、その時代には数年に1度大流行をおこして京都では1ヶ月で死者が9千人以上も亡くなっていたそうです。本のなかでは、このように表現されています。

 

「天然痘の感染力はすさまじく、ひとたびその病にとりつかれると、家族にうつると同時に濁流があふれるように、あたり一帯に急速にひろがってゆく。
患者は全身いたるところに醜い吹き出物ができ、その部分には膿がにじみ出る。激しい高熱が出て、病人はうめき身もだえしながら死んでゆく。病状が軽く死をまぬがれた者も、吹き出物の痕が深いくぼみになって残り、顔中があばただらけになって不幸な生涯を送らなければならない。」

 

物語は江戸末期の一人の町医者である良策が、種痘(天然痘ワクチン)を幕府に日本へ導入する話です。その中では輸入と使用の認可を幕府から得て、運搬し、実際に試し、種痘所の設置、実施する医者の教育、市民への教育と様々な困難を乗り越えていくのを描かれています。

同じ町医者として、その情熱には胸を打たれるものがありました。

 

この本を読むと、新型コロナウイルスワクチンで、我々が集団免疫を獲得するまでにどんな問題点があるのか見えてきます。

 

ジェンナーが1796年に種痘を発見してから48年、幕末の弘化2年(1844年)ごろ、種痘という方法(現在でいう生ワクチン)が天然痘予防に効果があるという情報がやっと入って来ました。そこから、良策は福井藩に輸入して実施したいという嘆願書をだしたのですが、本格的に種痘所ができて普及する1852年にまで実にトータルで8年もかかっています。

移動手段が徒歩しかない時代だったとはいえ、大変に時間がかかっていますが、その8年の内4年間は幕府へ嘆願書が渡されるまでの役人が浪費した時間で、最後の3年間は現地の行政にあたる役人と一般人への教育に費やされています。

つまり運搬の問題、臨床治験等は実質的には1年もかからずなされていて、実際は理解し、取り入れていただくために割いた時間が大半だったのです。

 

いざ一般の人に種痘できるときになっても、役人は冷たい態度で協力してくれず、他の医者は嫉妬心から種痘について否定的な意見を言い、ワクチンに恐怖をいだく一般の人々からはよってたかって石まで投げつけられるまでになったというのは、ひどい話ではあります。

どこか、現代にも通じるのではないでしょうか。

 

さて、今回の新型コロナのワクチン、供給、運搬、接種場所、人員確保、そしてなにより国民への安全性の説明が求められるわけですが、良策の奮闘から170年たった今、それに見合う進歩がみられると良いのですが。。。

 

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